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最近、街中でビルの壁ガラスに向かって踊っている人達の様子をよく見かける。彼らの中には、自称ダンサーだという人もいる。テレビで観る安室奈美恵やSMAPなどと同様なダンスを踊り、楽しんでいるようだ。思い起こせば、高校の体育祭でダンスの振付をしてクラスの友人達と踊ったことがある。その時、初めて踊りを楽しむ友人達の姿を見たのを思いだした。
踊りを楽しむ心があるから、現在の彼らのように”ダンスブーム”になるもの当然なのだ。ただそれが、芸術となるとまた違ってくるのか。バレエ芸術を彼らはどのように受けとめているのだろう。きっと、今回のような作品は好んでくれると思うのだが、劇場まで足を運んで来るのは、ごくわずかにすぎない。
数年前、久し振りに高校時代の友人から電話があった。「元気?バレエ頑張ってる?」という言葉に「うっうん・・・・・・」と少し疲れていたのか、頼りない返事をしてしまった。その後、彼からこんな励ましの言葉が届いた。
「芸術は技巧ではない。芸術は経験した情感の伝達である。芸術は人間内部にある力の最高度の発揮である。信じてがんばれ。」
彼は、以前から芸術にとても興味を持っていたので、バレエをいう総合芸術に触れ続けている自分をうらやましがっていた。
彼は今、何処で何を考えているのだろうか。機会があればじっくりとバレエ芸術についての話しをしてみたいものだ。再会できる事を期待している。
西島千博

 

〈編集後記〉
私は常日頃からダンサーの可能性について考えています。バレエという総合芸術における表現者であり、特に我がバレエ団は一年中「白鳥」「ドンキ」「くるみ」…と繰り返しているわけではなく、いろいろな作品、アーティストと接する機会を与えられているのだから、なおさら様々な可能性を秘めていると思います。ダンサーに一番必要なことは稽古です。でも寝る間も惜しみ、飲まず食わずでひたすら練習するだけでいい…という時代ではもはやなく、美術、音楽、文学などバレエをとりまく様々なことを学ぶべきだと思います。私は留学によって、強くそう感じるようになりました。体には限界があるので、ダンサー生命というのは短いものです。バレエをやめる、教師になる、のももちろんいいでしょう。でも自分が学んできたものの中から、才能があるもの、興味を強く持つもの…そういう道が開けてもいいのではないでしょうか?! 今回、遠藤君が振付をし、長瀬君が絵を描き、七人が文章を書き、私は衣裳を担当しました。それが完成されたものとはもちろん言えないでしょうが、機会がなければ、誕生・成長はあり得ません。アーティストが続々登場することは、バレエ団創立以来掲げている“ナショナル・バレエの創造”に通じることにもなると思います。
(小山恵美)

 

 

 

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